暑い。ついこの間春になったかと思っていたら、大阪は連日30度と真夏日である。
夏に入る前にもはや夏バテである。こういうときは飯を作る気分にはならない。
ガッツリしたものが食べたいわけではない。となると、何にするか。丁寧に作った料理がいいな。ほっと出来るものが食べたい。
散歩がてらに気になっていた店に行くことにした。
茨木市役所の近く。茨木神社の近くである。
お昼はいくつかあるランチメニューから選ぶようだ。ポークソテーの定食を頼む。
落ち着いた店内である。ここのところバタバタしていたしなあ。
歩いて暑かったし、ちょっと涼んでいくか。アイスコーヒーを追加する。
まずはサラダから。鰹節がふりかけてあるサラダ。そうそう、洋食屋のサラダってこういうものだった。きゅうりもレタスも水っぽくなくシャキシャキしていてうまい。醤油ベースのドレッシング。フレンチやイタリアンではお目にかかれないものである。
サラダを食べながら店内を見渡すと、年配のカップルと一人で文庫本を読みながらコーヒーを飲んでいる女性。昼時のピークを過ぎたからだろうか、思い思いにくつろいでいるようだ。
美しいコーンスープ。自然な甘みと生クリーム。優しい味。疲れた胃に染み渡る。
丁寧な仕事だな。
食欲もそれほどなかったのだが、サラダ、スープと食べているうちに胃も動いてきた。
メインのポークソテー。
実にうまい。カリッと焼き上げられた部分とジューシーな部分の対比が素晴らしい。
基本を丁寧に。どれ一つしておろそかにしたら後はならない。うまいなあ。
甘めのソースにしっかり下味がついている豚肉。柔らかく仕上がっているので、年配の方でも楽しめるだろう。
素揚げしてあるカボチャ。ポテト。みずみずしいブロッコリー。上に掛けられた玉ねぎもコクを加えている。
うまい。肉だけでもうまいのだけれど、ポテト、カボチャ、ブロッコリーと付け合せも食感が変わり単調にならない。
ソースと絡めてもよし、それだけで食べても別の表情を見せる。
今まで食ったポークソテーで一番うまいかもしれないな。
気がついたら食べ終わっていた。
アイスコーヒーを飲みながらぼんやり考える。何かを考えることがない時間もここのところなかった。
ホッとした。
洋食、いずれ日本からなくなっていくんだろうか。子供の頃、洋食屋というのはそれなりにあったように思う。イタリアン、フレンチがなかったわけではないが、今ほどは多くなかった。
丁寧に一つ一つの技法を極めて、独自の発展を遂げたんだよなあ。
フレンチやイタリアンとはまた違う旨さだ。
ここのところ、自分がやっていることは本物ではないものを作っているという意識が強くある。
何を持って本物とするのかという事はあるのだが。
本物かどうかと言ったら、偽物だろう。その文化の外側にいる自分が無邪気に出来ることではない。
だが、このポークソテーは偽物なのか。そんなわけはない。
気持ちや技術は本物であることは疑いようがない。これはイタリアンやフレンチなどの旨さとはまた違う到達点であるように思える。
その土地で、得られる材料にも限界があるなかで工夫してきた無数の工夫がこのポークソテーを成り立たせている。
自分なりの物は作れないのか?そんなことはないだろう。
まがい物であってもいい。気持ちや敬意が本物であること。永遠に届かないことをわかった上で最後まで。それを忘れなければいい。
師匠はそうだった。弟子の自分もそうしないと。
窓から見える新緑に力を感じる。日に日に力を増していく。自分の力は衰えていく。
どうしてこんなに新緑は美しいのか。いつまでも眺めていたい。グラスの氷が高い音を立てた。
ヒントを貰えた。リラックスできた。もう少しやってみましょうかね。
ごちそうさま、また来ます。
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