ファンクを代表するミュージシャンでありながら、作品以外の人物像についてはあまり知られていないスライとそのバンドであるザ・ファミリー・ストーンの伝記です。
スライの子供時代からDJの時代、表舞台から消えてからスライがどう過ごしていたかまで詳細に書かれています。
スライはファンクのオリジネーターの一人ではあるのだけれど、ファンクという枠だけで語るのは無理があるミュージシャン。伝記を読んで、大学時代の学びや当時の環境は大きかったんだろうなと思いました。
スライがベイ・エリアではなくてテキサスにいたら歴史は変わっていたかもしれない。
あと、スライについてはわかっていることはそれなりにあってもメンバーについてはわからないことも結構あったわけですけどそういうところも知れる。
THERE’S A RIOT GOIN’ ON以前のアルバムは今のフォーマットが固まったファンクからは出てこないような作風で、ゴスペルがルーツにあってもロックなど同時代の音楽を相当に聞いてないとああはならない。
スライ&ザ・ファミリー・ストーン以前のスライの仕事がわかるもので手に入れやすいものだとこれですかね。
スライといえば、リズムマシンを使ったことやトーク・ボックスの使用などサウンドメイキングでも革新的だったわけですが、Freshの時点でテープ・ループで曲を構成していたりと20年以上は先に行っていたんだなと思わされるような記述がいろいろと。
面白い記述があったので抜き書きしておきます。
当時2インチのテープを使っていたので、その晩俺は『居残り』をしてその4小節のコピーを200ばかり作ったんだ。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンの伝説―人生はサーカス P185から引用
サンプリングのドラムを使ったとなると歴史的にはスティーリー・ダンが最初となるわけですけど、ループで曲を構成したというのは改めてとんでもないですね…
「彼はドンカマをつかってパートごとに録音した最初の人間だ。やつはよく全部のパートを自分で演奏したからさ。」そのためにドンカマに合わせて演奏する必要があった。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンの伝説―人生はサーカス P183から引用
多くの人にとっては、え、そんなの当たり前やろと思われると思うんですが、ソウルやファンクはリズムセクションはそのまま録音することが多かった。
だから、全然これは普通のことではないです…
モータウンはファンク・ブラザーズが録音してから、ボーカルを重ねたり、ストリングスをダビングしていた。
Earth,Wind&Fireなんかも、リズムは揺れてますもんね。
一人で演奏して作ったものとバンドで演奏したものは明らかに違う。濃縮された異様なファンキーさがありますもんね…
そういう意味でもスライの革新性がよくわかるんじゃないでしょうか。
逮捕される時に「弟のフレディだ」といったり、George Clintonと一緒にパクられたりといろいろファンキーすぎるエピソードもあるのですが、スライの好きなところはこういうところだなと思ったのが序文でした。
ああ、という気持ちになりますね。よくわかる。スライという人がどういう人かこの序文だけで伝わってくる。Slyの歌詞にも影響受けたのを読み返していて思いました。
SlyはHigherのような曲も書くけれど物悲しいんですよね。
Everyday Peopleのような希望に満ちた曲も書けるし、こういう曲も書ける。悲しみも喜びも常人よりずっと深かったんだろうなと思います。
Bobby Womackもそうだけれど。自分が好きなソウルやファンクの人はみんなそうですね。
なんとも言えない読後感。自分が何から影響を受けて音楽をやっているかは忘れないようにしたいですね。
George Clintonのファンキーすぎる序文はぜひ読んで欲しいので引用は避けますが、スライもMotheshipに乗っていたんですね。
ファンクが好きな人なら楽しめる記述もたくさんあります。
良いプレイヤーになる以上に良いリスナーになりたいですね。改めて思いました。
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