頭が悪いタイトルですね…
アナログ的なサウンドが好きな人は、テープのサウンドは大好物ではないでしょうか。
私は古いソウルやファンク、ジャズ、ブルース、ゴスペルといったものが好きで、特に好きな年代は70年代後半くらいまで。その多くはテープで録音されたサウンドなんですよね。
アナログのレコーディングということですね。対してDAWはデジタルのレコーディング。
今の周流であるデジタルレコーディングの歴史自体は古くて1969年にはNHKが最初のPCMレコーダーを開発したみたいですけど、普及したのはソニーのPCM3324からのようです。
80年代からはデジタルレコーディングが主流になるわけですけど、その音質は古い音が好きなものにとっては理想とはだいぶ違うサウンドです。
分離がいいサウンドは、モダンなサウンドにするにはいいものの、古いサウンドにするのは難しい。
M/Sどころか、モノラルとか古いソウルのレコードは普通にありますしね…
お金がいくらでもあるのなら、今すぐDAWを捨ててフルアナログにしたいくらいですけど、そんな時間もないし、リコールはダルすぎる。
お金も時間もないけれど、アナログ的なサウンドにしたいとずっと思って工夫してきました。
そういう人には失神しそうなくらい嬉しいプラグインがSoftubeのTAPEです。すごい紹介文句やな…
こちらの論文が大変参考になりました。どういうテクノロジーを使われていたか理解するともっと面白くなりますね…
SoftubeのTAPEとは
テープのイメージってどんなんでしょう。温かみがあって、一体感がある。上が耳障りではなくて金物なんかが痛くなく綺麗に伸びる。ベースやドラムをいい感じに鈍らせてくれる。ファットなサウンド。そういったイメージがあります。
そういうイメージを簡単に叶えてくれます。見た目もいい。たまらんですね…
使い方は極めて簡単なんですが、自分へのメモをかねて書いておきます。
1はVUとTHDの切り替え。THDは(Total Harmonic Distortion)歪み量を表してます。注意点としてはVUは右方向に動くけれど、THDは左方向に動くということですね。
基本的には2、3、4でテープサウンドを決定します。
2はテープサウンドがどれくらいトラックに影響するかです。
3は、テープのタイプですね。マニュアルの文言といろいろ調べたものをまとめておきます。
Type A マニュアルの文言を見ると60年代のスイス製のテープマシンのエミュレーションとあるので、Studerでしょうね。やわらかいと称されることもあるようです。
Type B トランス・ベースの回路とあるんですけど、Ampexらしいとのこと。Ampexだから、アメリカのテープマシンですね。モータウンはAmpexのMM1000を使っていました。他のAmpexも使っていたようです。
今聞いてもかなりテープコンプの影響は大きいと思われるので、こういうのやりたいならType-Bですかね。
中低音の重心が落ちる感じと表する人も多いようです。ファットでパンチがある、ドラムの音像なんかだと前にくる感じがありますね。
TypeC ブリティッシュ・テープマシンに触発されたとマニュアルにはあります。EMIではないかとのこと。ローにパンチを加える感じですね。一番歪む感じがあります。
正直、かなり歪ませないとそれぞれのタイプの差はわかりにくいと思います…私はBしか使いません…
4はテープスピードです。ips(inch per second)ですね。15が標準で下げれば下げるほど歪んで、ローが出ます。あげればハイが出ますね。当時のテープマシンのエミュレートをするなら15からそれ以下となりますかね。
それぞれのテープのレコーダーの特徴を見たい場合はipsを下げてAmoutを上げるとはっきりカラーの違いがわかると思います。
この3つで基本的な音色を決める。
VUメーターで赤のところを越えると、より歪み、テープの特徴的なサウンドになります。
このパラメーターだけで使えるんですが、細かく調整したいときはいくつか方法がありますね。
パネルの右側を開くとこのような画面が出てきます。RC-1と出てくるところですね。
- DRY/WET 原音の割合とエフェクトの割合です。普通はWET100%で使うことが多いと思いますけど、裏技的にSPEED STABILITYを上げて、DRYとWETの割合を100%以外(50%)などにすると、フランジャー効果が作れますね。原理的にはテープフランジングやってるのと同じになりますから。結構使い道ありそうです。
- SPEED STABILITY 速度の安定性です。Wobbly(ぐらつく)というようにピッチの揺れなどが加わります。Lo-Fiな感じにできますが、RC-20みたいにめちゃくちゃ揺れたりはしません。
- HIGH FREQ TRIM BOOSTすると膜が取れたようなサウンドになります。Cut方向に持っていくと高域がなくなります。
オーバーダビングすると、ハイが削れるという特性をエミュレートする時なんかに楽しいんではないでしょうか。
ホーン、ストリングスなんかはここをいじると古いサウンドにする時は楽しいですね。モータウンだと、ボーカルは同録しなかったわけですから、ボーカルなんかもこの辺りいじってもええかもしれません。 - CROSSTALK アナログのMTRなどを使ったことがある人はご存知のCROSSTALK,トラックの音が隣の音に漏れる効果ですね。
LRのトラックで考えていただければわかると思うんですが、Lのトラックにあったものが、Rのトラックに漏れるわけですから、左右が滲んで、センターに集中する感じになります。
めちゃくちゃ広いステレオイメージって昔は出来なかったということですね。
Studio Oneは全トラックの隣り合ったところに音漏れがするようにできますが、それ以外は左右に音漏れするという挙動のようです。ほかのDAWではマスターに挿すことを想定しているということでしょうね。Studio Oneだと負荷は大きいんですけど、効果は絶大です… - MASTER LEVEL INPUTは入力信号の大きさです。Amountだけで歪みが足りなければこちらで調整すればいい。OUTPUTは出力信号の大きさですね。歪ませるけど、音量は上げたくないという時なんかに使うといいと思います。
- NOISE テープのノイズを加えます。テープの回転速度によってノイズの乗り方が違います。昔のMTR、高音質モードだと録音時間半分になるとかありましたね…
- RUN/STOP テープの再生・ストップです。テープストックエフェクトなんかにも使えます。オートメーション書いたりしてもいいんじゃないでしょうか。
追記:2023/08/11
検証しました。CrossTalk、めちゃくちゃ大事ですね。
SoftubeのTAPEはテープフランジャー効果なども使えますし、アナログごっこが捗ります…
治安が悪いサウンドに出来て、テンション爆上がりです…
あ、負荷は軽めなのでガンガン使えます。
追記:2023/08/09
ホーン、エレピ、ベース、ドラム、ギター、ベース、最後にマスターにもかけてあります。サチュレーションはSoftubeのHarmonics、リバーブはSoftubeのSpring Reverb,ルーム系はIKのsunset、ベースはフラット弦,EQはそんなにしてません。Console1でやりました。
らしくなって楽しいですね。60年代後半から70年代のソウルっぽい感じにしてみました。いろいろ工夫はしてますけど、こういうのが楽に作れるようになったのはいい時代になったなと思います。
追記:2023/11/25
いわゆるStevie Wonderの黄金期は複数のスタジオで録音されています。Electric Lady,Crystal Studio,Record Plantです。
Record PlantではAmpexのMM1000が使われていたようですね。動画を見ると。いろいろ調べるとソウル、ファンク系の特にアメリカ録音では、メンテナンスの問題もあったのかAMPEXが圧倒的に多いようです。
Record Plantで録音されたときは16トラックだったそうです。コンソールはAPIの16チャンネルを使用していたとのこと。PrinceはSunsetでもPasley ParkでもAPIのコンソールを愛用していたわけですし、70年代アメリカでのAPIの人気はやっぱり高いみたいですね。60年代だと、調べるとカスタムのコンソールが多いんですけど…
使い方
Softubeの推奨する使い方です。
まずは30 ipsか15 ipsを選び、Amountを調整して過度なトランジェントを抑え、次にHF Trimでハイエンドを補正する。
ミックスにパンチと明瞭さが足りない場合、クロストークを使用すると、磁気テープのように左右のチャンネルがにじみます。中音域(ボーカル、ベース、キック)のインストゥルメントを補強するために使用します。
ほとんどのマスタリング用途では、クロストークの40~50%までが必要です。ボーカルが目立ちすぎる場合は、HF Trimを使ってトップエンドを少し抑えましょう。
マスターバスで微妙な色付けが必要な場合はタイプBを使用します。タイプBはタイプAやCよりも許容範囲が広いため、低域にパンチがない素材にはタイプCを使用するとよいでしょう。
補足です。
THDメーターが1~1.4を示すまでAmountをまず設定する。必要であれば、Inputゲインを上げて色付けをするとのことです。
プリセットが豊富なので、正直それを叩き台にしてゲインマッチングを行えば、らしいサウンドになってくれると思います。
THD1〜1.4という数値がテープらしさが出てくるという設定ということのようですね。
基本的に、Typeでどういう傾向なのかを選んで、TAPE SPEEDで音質を調整し、Amountでどれくらいかかるかとやればいい。わかりやすい…
大雑把に設定したら、細かいところはRC-1で設定すればいいということですね。分かりやすい。
そして、便利なところはそれだけじゃないんです。
Softubeのプラグインをお持ちの方はご存知のように、音量が大きくなっても誤魔化されないように、ゲイン差を補正してくれる(入力と出力を同じにしてくれる)ものもあります。自分の耳は適当なので助かっています。
SETボタンを押せば一発で設定できます。わざわざGainMatchなんか立ち上げなくていい。めちゃくちゃ便利。
ヘッドルームも、ハイパスも調整できる。ゲインの管理もやりやすい。アナログサウンドだけれど、利便性を失わないというSoftubeの面目躍如ですね。
ドラム、ベースを馴染ませて、重心を下げることも出来ますし、ガッツがあるような音にも出来る。ボーカルやストリングスの馴染まなさを解消する。薄っぺらいサウンドもファットになり、アナログ感を楽しめます。
まとめ
派手に色付けされるタイプのテープのプラグインもあるけれど、SoftubeのTAPEはそういう掛かり方ではないですね。もっと上品というか、さりげない使い方が向いているように思います。
打ち込みくさいドラムや厚みがないベース、耳障りな高音などをいい感じにしてくれる。重心が下がり、立体的に聞こえる。
少しずつ掛けていくと、ミックスの最終形で大きな差が出るようなプラグインだと思います。
これ、当時のレコーディングの過程を考えると、納得できました。
もちろん、Headroomの調整をすればめちゃくちゃ潰れたテープコンプとサチュレーションを得られますけど、それが持ち味ではない。
ローファイ系テープとは一線を画すサウンドですね。WavesのJ37のような、派手な味付けがあるものとは違うと感じました。RC-20なんかとも違う。あれはあれで、すごく楽しいですけど。
ソウルのレコーディングの歴史を調べると、ヒットしそうとなってからホーンのダビングすることが多かったそうです。
スモールコンボでまず録音するのが多かった。モータウンはボーカルは同録じゃなかったわけですし。ストリングスも多くの場合は、あとでダビングです。
そうなるとテープコンプ、何重にも掛かっていたわけですね。今の感覚だと、すごいコンプがかかってるサウンドだなと思うけれど、レコーディングの過程を考えるとわかる。
モータウンだと、スタジオのスネイクピットではストリングスはスペース上録音は出来なかったはず。当然オーバダブするわけですから、テープコンプやサチュレーションはかなり掛かる。
テープのサウンドへの影響は思ってるより大きかったんでしょうね。
そして、モータウンは車での聴取を前提にしてテストもやっていたわけで、等ラウドネス曲線考えたら、低音や中音域がコンプレッションされているサウンドである必要はあったんだろうと思います。
音量下げたら聞こえないってことにならないように考えていた面もあるんだろうなと妄想しています。
Console1をお持ちの人は、ShapeチャンネルにもDriveチャンネルにも読み込むことが出来るので、素早くテープサウンドを得ることが出来る。
1960年代だと、コンソールはカスタムのものがほとんどだったわけですから、こういう遊びを簡単にやろうとしたらConsole1はめちゃくちゃ楽しいです。UAD使う人にも楽しいでしょうね。
派手な効果があるプラグインではないですけど、馴染ませ、好きなソウルやファンクのサウンドに出来て楽しいです。SoftubeのTape、おすすめです!
70年代ソウル・ファンクごっこをする時にAPIのコンソールを使えるのも楽しいです。いずれレビューしたいですね。
当時のレコーディングの情報を得られるものとしていくつか日本語で読める資料をあげておきます。もはやこっちの方がTapeの紹介よりメインですね。別の記事にした方がいいかも。
60年代のソウルが録音されたスタジオで、技術がぶっちぎりで進んでいたのは、アトランティックとモータウンです。移転前のスタックスは劇場跡を改装したもので、ディレイを計算してAl Jacksonがプレイしていたような記述もあります。
ハイのレコーディングとスタックスのレコーディングで、同じドラマーなのと思うプレイしてますもんね。
ドラマーには有名ですが、スネアのチューニングのミュートが財布だったとか…結構、ソウルのレコーディングのエピソードなどには出てきますね。
絶版になっていますが、譜例も多く楽しめる書籍です。Ampexを使用していたなどの記述もあります。ジェマーソンのベースは卓に直結、つまりDIサウンドだったということもモータウンのベースサウンドには強く影響していたと思います。
手に入れることが年々難しくなると思うので、一部引用しておきます。
スネイクピットの限られた広さと、生楽器がお互いのマイクにかぶってしまうという本来的な問題のため、ジェマーソンやギタリスト達がレコーディングでアンプを使うことはごく稀にしかなかった。エレクトリックな楽器はすべて直接レコーディング・ミキサーに入力していたのである。
伝説のモータウンベース ジェームスジェマーソンP83から引用
そのほかにも、VUメーターで赤がつくようにしていたとの記述もありますね。
真空管のサチュレーションを意識的にジェマーソンがコントロールしていたわけです。長くなるので、記述は控えますが、VUメーター見ながらゲイン・コントロールするのはプレイヤーの責任だったそうです。
また、ジェマーソンのサウンドを整えるために、Fairchildのリミッター、PulteqのEQ1、2台でサウンドを整えていたとの記述があります。これに加えて、テープコンプも掛かるわけですから、かなりのコンプサウンドですね。
アメリカに比べてイギリスのレコーディング進んでいたことがわかって面白い。
直接的にソウルのレコーディングなどについてわかるわけではないですが、同時代のレコーディング状況がわかって興味深いです。
パラレルコンプはイギリスが発祥で、かなり早い時期からあったのは驚きでした。スタジオの図面などがあるのも勉強になります…
これも機材にフォーカスした本ではないですが、どのスタジオでどのアーティストがレコーディングしていたかなどを知れます。
時折、誰が使っていたマイク、卓やリバーブなどの機材についての言及もあるので、古いサウンドを作りたい人は資料として持っていても損はしません。
読み物としても面白いですしね。
R&B,ソウルが録音されたスタジオが多く取り上げられている珍しい本という意味でも貴重だと思います。
シグマ・サウンドスタジオ、スタックス、J&M、チェス、ユニバーサル、モータウン、アトランティックが取り上げられている時点で、古いブラックミュージックのファンなら買っとけといいたいですね。
スタックスのレコーダーが初期はAmpex350という記述あり。JAS掲載の論文のリンクを貼っておきます。ipsの重要性がわかるのではないでしょうか。ips30なんかに設定したら、イメージするサウンドに全然ならないということでしょうね。
こういう資料を見ると、プラグインの使い方がイメージできたりすることもあるので、勉強は面白いですねえ…
ちなみにChessもAmpex350ということです。メンテナンス考えるとイギリス製の機材より、アメリカの機材が良かったという面もあるのかもしれないですね。ビル・パットナムの先進性がわかる書籍でもあります。
Ampex350のプラグインはWavesから出ています。
写真もかなり掲載されているので、機材もある程度分かりますね。
直接当時のソウルのレコーディング機材がわかるわけではないですが、機材の外観を覚えておくと、写真などから機材が特定できる場合もあります。マイク、コンプ、EQなどは結構写真で写っていることがありますしね。
機材が解っても当然、オリジナルを買うことは出来ない。プラグインもない場合では、機材にどういうパーツを使っていたとかわかると、古いサウンドを作るときのヒントになったりするので重宝してます。
ああ、こういうトランスを使っていたから、これで代用できるかもなど考えられるのは楽しいです…
サンレコの連載でも有名な高橋さんの書籍、コンソールと銘打ってあるだけにコンソールについて素晴らしい情報量があります。
マイク、コンプなどに言及もありますし、エンジニアなどインタビューも多く読み応えあります。
EZXのSouthern Soul EZXはフェイム録音の音源です。打ち込みでああいう音にしたいならこれはあっても楽しいですね。Ezdrummer3でも使えます…
追記:プリンスもAMPEXを歪ませて使っていたとの記述あり。ドラムも自分でチューニングしていたとか、エンジニアリングもめちゃくちゃ出来た記述があり。レコーディング技術史としても楽しく読めます。
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