Abletonはエフェクトに関してはかなり強力なDAWと言えると思うのですが、標準で搭載されていないものがあります。ダイナミックEQは標準で搭載されていない。
ダイナミックEQ的なものを、Envelope Followerを使って作って遊んでみました。実験です。
もちろんPro-Q3のようなDynamic EQのような機能はないのですが、純正で作れることにはメリットがあります。
- PUSH3スタンドアローンで使えること
- ライブパフォーマンスなどで安全性を確保できること
この記事を読む方は、そもそもDynamic EQとは何かご存知だと思いますが、基本的なことも書いておきます。Ableton友の会の資料として使いまわししたいからね…
Dynamic EQとは
特定の周波数帯域に対してのみ動的にイコライズ(EQ)を行い、他の周波数帯域には影響を与えないエフェクトです。コンプレッサーとEQを組み合わせたようなものといえばいいですかね。
と言ってもなんだかよくわかりませんね…ひとつひとつ考えていきましょう。
Dynamicの意味と動作の原理
Dynamicの対義語はStatic(静的)です。普通のEQはイコライジングしたら、勝手にゲインが動くことはありませんね。動いたらホラーです…
そういう意味で静的ということですね。
対してDynamic EQは設定したしきい値を超えた場合その帯域だけを自動的にカットまたはブーストします。しきい値を超えない限りは、その周波数帯に対する変更は行われません。
どういうメリットが有る?
特定の帯域だけを選んで処理できるのがメリットです。
例えばボーカルやハイハットで痛くなったところだけ抑え込んだりすることが出来ますね。痛くないところはそのままだから、質感を変えないですね。
EQとの違いはEQしてしまうと、その帯域はずっと変化したままなので、音質は変化したままです。
ダイナミックEQは特定の帯域で、しきい値を超えた場合のみ作動するわけですから自然な感じを保てる。質感を保ってくれます。
なので、ボーカルや、ハイハット、あるいは生楽器だとベース、特定のフレットや弦だけ飛び出しちゃうようなものを押さえたりできます。マスターに挿すのもありですね。
曲の一部で飛び出しちゃうような帯域を押さえたりすることが出来ます。
マルチバンドコンプとどこが違うの?
ここまでご覧になったら、え、これ、マルチバンドコンプと同じではと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
マルチバンドコンプもダイナミックEQと共通しているところがありますね。特定の帯域に対して、しきい値を超えたら作動する事は同じです。
違い
マルチバンドコンプレッサーはいくつかの帯域に分割して、それぞれにコンプレッサーのパラメーターがありますね。
ダイナミックEQは帯域を分割していません。
一番大きい特徴は、ダイナミックEQはフィルターのカーブを選んだり、Qの鋭さを変えられることですね。より細かいことが出来るのがダイナミックEQ。
昔はマルチバンドコンプレッサーは帯域を切り分けることで、位相の問題が起こると言われてましたけど、今のマルチバンドコンプレッサーではそういう問題は耳でわからないくらいのレベルだと言われています。
マルチバンドコンプレッサーはもっと大きい帯域でコントロールしたりするのに使いますかね…
ベースを均すの使ったりするのが多いんじゃないでしょうか。
ダッキングする場合
キックとベースの帯域は多くが被ってますね。だからもこもこしがちです…
オールドスクールなソウルやファンクならそれこそがキモだったりするわけですけど、まあ、普通はクリアにしたいですよね。
クリアに聞かせたい場合、キックが鳴る時にベースの音量を下げるようにすれば、両方ともクリアに聞こえますね。
キックをキッカケにして、ベースのトラックを下げる。ある音を基準にして、ある音を下げるのをダッキングといいます。外部信号で作動させるわけですね。
エクスターナル・サイドチェイン(Sidechainとだけ書かれる場合もある。Abletonはそう。)とは外部トラックの信号を利用して、動作させるということです。
普通のコンプレッサーとの違いは?
え、コンプレッサーでもサイドチェインってあるやんとなりますよね。
はい、あります。
ただ、コンプレッサーは入ってくる音を全て圧縮してしまうわけですね。
ということはキックと被っている帯域だけ抑え込むというわけではなくて、聞こえて欲しい欲しいところも抑え込んでしまうわけですね。
帯域を指定できるマルチバンドコンプレッサーや、ダイナミックEQでダッキングするのとは違います。
より自然にしたかったらコンプレッサーをサイドチェインで使わないわけですね。でも、これもケース・バイ・ケースです。
ダンス・ミュージックなどで使われるサイドチェインはアタック早目、リリース早目という形で音が立ち上がってくる形になりますよね。ポンピングサウンドと言われるものです。
生楽器でそんな設定にしたら不自然ですけど、でもシンセなどで動きがあるのは音楽的ですよね。特定の帯域だけ下がってほしいわけではない。
そういうときはコンプでダッキングすれば良いわけですね。
Envelope Followerとは
いやあ、長かった…
ここからいよいよ擬似ダイナミックEQを作って遊ぶ準備に入ります。
じゃあ、なんでEnvelope Followerを使うかということですね。
「エンベロープ?封筒?フォロワー、SNSとか。封筒マニアがたくさん集まるってこと。怖すぎる、絶望や…」となるかもしれませんがそうではありません。大丈夫です…
Envelope Followerとは入力信号オーディオ信号の振幅(音量)の変化をその情報をその他の信号に変換するものです。
でも、まだちょっとわかりにくいですね。
ギターで考えてみましょうか。弾いたら音が立ち上がって、暫くは音量は維持されてから減少していきますよね。
こういう経時的変化をエンベロープといいます。
まあ、フィルターなどの変化量もFilter Envlopeと言ったりするので、変化量とおぼえておくと応用が利くんではないでしょうか。
ピッチなどの変化量をPitch Envelopeといいますね。
時間とともに変化するもの。こう理解すれば問題ないですね。
なので応用範囲は広いです。オートワウにももちろん使えますね。音量の変化をフィルターの開閉に使えばいい。
あと、VJなんかはEnvelopeを多用してますよね。キックに合わせて、映像が動いたりしてるあれです。Envelopeを使っている代表例かな。
ですので、今回はキックの音量変化を利用して、EQのゲインをコントールします。
結果的にダイナミックEQと同じような効果を得られます。
設定方法
ここまで来たらもう一息ですよ。
トリガー(キッカケになる信号)があるところにEnvlope Followerを立ち上げます。今回はキックをトリガーにします。
一応パラメータの説明をしておきます。
- Gain 信号の大きさを決めます。掛かりを強くしたいならここを上げるということですね、
- Rise シンセなどのアタックタイムと同じです。最大値までのスピードのコントロールと理解すればいいですね。
- Fall シンセなどのDecayやリリース的なものと覚えておけばいいと思います。
- Delay 掛かるタイミングの遅さです。
今回はキックがなったらすぐに音量が下がるようにしたいので、Gainを上げるだけでOKです。後はお好みで。
でマッピングしていきます。
コントロールしたいトラックにEQ8を立ち上げます。ダッキングしたい周波数を決定します。耳で決めてもいいですが、不安ならEQ8などでキックのトラックにもEQ8を立ち上げ、基音部分のもっとも音量が高い部分を覚えておきます。
そベースのトラックを立ち上げて確認したキックの帯域を指定して、Qなどを設定します。
Envelope FollowerのMapボタンを押します。マップボタンが点灯します。
ベースのトラックに移り、キックと被っている帯域のGainをクリックします。
マッピングされました。その後Remoteの横の値を調整する必要があります。
左側を50%、右側を0%にしました。左側をなぜ50%にするかと言うと、Eqのゲインは+もーもあるからですね。
中央は50%なので。右側は変化量です。0%ということはゲインはマイナス方向に動くわけです。
100%にするとキックに合わせてベースの音量が上がってしまうことになっちゃいます。まあ、ベースに使うとアレですけど、パッドやパーカッションなんかに使うのならありかもしれませんね。
お疲れ様でした!キックに合わせてEQ8が作動しているのがわかりますね。キックが聞こえやすくなりましたね。
まとめ
ミックスに使うならPro-Q3だったり簡単に設定出来るものが楽かなと思ったんですが、これはこれでありですね。
トリガー用のトラックにEnvelope Followerと入れたものとベースのトラックにもEQ8でマップしたものをテンプレートに入れておけば制作してすぐに使えますしね。
Pro-Q3みたいなダイナミックEQ使えるのも便利ですけど、さっと手軽にというのなら全然ありだなと思いました。
工夫するのも楽しいですね!
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