機材を買いに出かけたが、目当てのものが見つからず。資料を探していたところメールが。
出張が早く終わったので、友人から飲まないかとの誘いが来た。梅田にいるとのことなのでさっと入れる店を。今日中に東京に戻るとのことなので近くの店で待つことにした。
資料も重いので先に悪いけど飲んでいよう。
大阪はもう夏の陽気である。ビールを火照った体に流し込む。生の実感はこんな単純なことでも得られる。
以前に比べると食べられなくなった。
漬物の彩りが美しい。資料を眺めていると、友人がやってきた。
ちょっと白いものが増えたかな。照れ笑いしながら「よう」と一言。
「何年ぶりだっけ?」
「東京にいた時に押上で飲んだのが最後だっけ?7年?」
「え、嘘だろ。でも、そんなものか。」
時間もないことだから、どんどん頼もう。と言ってももうそんなに食べられないのだけれど。
古い友人のいいところは何年会ってなくてもすぐに変わらない空気になるところだ。うまい。ぱさつかず、良い焼き加減。
おっさんの自分たちにはちょうどいい量。
7年の間にいろいろあった。自分は再婚し、友人の奥さんは長い闘病生活の末、世を去った。朗らかな人だった。あいつの人生を間違いなく明るい方向に向けた。お似合いの夫婦だった。
米鶴。超辛口。
人生は自分たちにとっては甘くなかった。水のように喉を通る酒だ。清冽という形容詞が適切なのだろうか。
有り余る能力を持ちながら、友人は自分のために力を使わなかった。多くの時間を奥さんと過ごした。
「久しぶりに旨い酒飲んだよ。うりなみは?」
「昔みたいに飲めなくなったよ。まあ、一杯の価値が上がったと思えばいいんじゃないの?」
「うりなみ、そういうところ凄いよなあ。俺は出来なくなったことを受け入れないよ」
「何それ。褒める体でディスってんの?」
能力がなくてもしがみついて、なんとか大事なものを手放さないでいるだけだ。
家族のために自分の力を全部使うようなことが出来るお前は凄いやつだ。
黙って飲む。
「なんで命を分け与えられないんだろうな」
掛けられる言葉はない。
死を恐れたことは無いが、残されたものの痛みを考えるようになった。 残される痛みも耐え難いのだけれど。
「なんでだろうな。理不尽じゃない死はないな。慣れることは永遠にないよ。」
別れた元妻がこの7年で亡くなった。死はもう遠いものではない。曲がり角で。交差点の向こう側で。
そこかしこに死は見え隠れする。
多くの友人がこの世を去った。
「あと何回会えるんだろうな。10回も会えないかもな。」
「そんなことあるかよ。でも、あれか、この10年で会った回数を考えるとあながち間違いでもないか…」
もしかしたら会えるのは最後かもしれないと思ってこの先はずっと生きることになる。歳を取った。
若さを失うだけで成熟とは程遠い歳の取り方をしてしまった。
「出来るだけ会おうぜ。いつまで、ちゃんと話せるかなんかわからないしな。Lutherの再発聞いた?」
不器用なやつである。
「おう」
ソウルの話をして、新大阪まで。
生きるのは年々辛くなるなと笑って別れた。全くだ。
旨い酒だった。だが苦かった。
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