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ファッツ、空を飛ぶ

無理ない暮らし
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ファッツ、空を飛ぶ

猫が空を飛ぶといったら、あなたは信じるだろうか。

ファッツは空を飛ぶ猫だった。

ファッツと暮らしはじめた時は、不安が多かった。猫と暮らしたことがなかったのでどうすれば良いかわからない。

本当に小さかった。

こんなに小さな生き物に生命があるなんて信じられなかった。

音楽と文学しかなかった自分の暮らしに異種族の同居人がやってきたのだ。

一緒に暮らしはじめた当初は、ファッツは本当に消耗していたのだが、生命力は強かった。

とにかく栄養を取らせないといけないと思い、食べさせた。魚のアラなんかはファッツと分け合ったものである。

時々、自分の分を取ろうとするので

ファッツ、水嫌いでしょ?魚は海にいるんだよ。自分でとれないものなんだからほとぼどにしなよ。

それとこれとは、べつや

おおきくならなあかんからな

などとやりとりをしたものだった。

ファッツはチビで弱かったし、迷子になりそうだったので良く真夜中に二人で散歩にいった。

こっちにいこう

いや、ファッツ。そこは人間が入ったら逮捕されるからね…

異種族同士のコミュニケーションは難しい。ファッツは犬みたいなところがあった。

雪を初めてみた時のファッツの表情が忘れられない。

なんやこれ!

雪だよ。ファッツ。

大興奮して、雪の中に突っ込んだりしてはしゃいでいた。猫でもはしゃぐものなのだ。

翌年も雪が降った。

ファッツ、雪だよ!

こどもやな、うりなみは

ふゆはこたつでまるくなるのがねこなんや

ええっ、去年、あんなに喜んでたじゃない…

おおきくなったからな

そう。ファッツは強くて大きな猫になった。筋肉質な猫というのも変な話だが、一緒に毎晩ボール遊びをしたりしていたからだろうか、ファッツは巨大なネコになった。

7キロって猫の重さじゃないと獣医に言われた。

ファッツは仔猫の時から、結構な怪我をしてきて心配させたものだった。

獣医に行くと、「この子、本当に気が強いね…ケンカ弱いのに向かい傷しかない。」

つよいんや!

「はい、じゃあ消毒しとくよー」

たすけてくれ!うりなみ

こいつはわるものや!

いや、強いんでしょう。ファッツ。我慢しないとダメだよ。

ま、そんな感じでファッツと暮らしていた。

ファッツはハンターだった。ちびっこの時から鳥を狩ろうとしては失敗していた。

2メートルほど垂直にジャンプして狩ろうとしたことは、忘れられない。自分の人生で見た中で最も美しい光景の一つだ。

無理でしょ、ファッツ。ジャンプは出来ても猫は飛べないよ。

おおきくなったらとべる

ファッツは誇り高い猫だったので、狩りの失敗をみられるのを嫌がった。

いま、かおのおそうじしとるだけ

ほんきじゃなかった

こんどはほんきだす

そうなの。なんか前から狙ってたみたいに見えたんだけど。ダメ人間、いや、ファッツは猫だもんね…ダメなやつっぽいよ。その物言い。

きのせいや

そして、大きく強くなったファッツは本当に空を飛んだんである。

あれも今日みたいに暑い夏の日だった。

ボロいアパートだが、夕方は窓を開けると涼しい。西日が差し込む部屋でファッツと自分はまどろんでいた。

窓を開けたまま、古いソウルを聞いていた。当時は二階に住んでいた。

アパートには庭木があって、そこにゆっくりと鳩が止まった。

ファッツが飛んだ。なんの躊躇もなく二階から飛んだのである。

ファッツは鳩を狩った。

とべるやろ

ファッツが誇らしげにこっちをみたように思えた。

いや、ファッツ、それ、確かに空を飛んだけど、違うんじゃ…

獣医に窓から猫は飛ぶんですかと聞いたら

「それはおかしいね…この子、ちょっと異様に大きいし、虎みたいだよね…」

と苦笑した。

猫が空を飛ぶといったら、あなたは信じるだろうか。

あの夏、ファッツは空を飛んだのだ。

ファッツの思い出
出張先で猫を見た。 人相が悪い、茶トラの猫。ホテルの近くにあるアパートの洗濯機の上で眠そうな顔をしてこちらを見た。 ファッツか。どこに行ってたんだよ。 そんなわけはない。もう、ファッツはいない。 ファッツにはじめてあったのは寒い日だった。 ...

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